2024年6月のグランドチャンピオンで話題となったセット交換。公平性を期すため、大村オーシャンカップでは実質セット交換禁止の新ルールが追加。
ただし、大村SGのみの整備規程であり、他の場で採用されるかは不明。
競艇で使用されているモーター性能はそれぞれ異なり、機力アップのために整備を行うことも大切な仕事です。
そして、整備の中でも機力変化に関係しやすいのが「部品交換」。
選手はどんな部品を交換できるのか?部品交換によってモーターにどんな影響があるのか?交換したモーターをどう評価すれば良いのか?
今回はそれらの疑問を全て解説していきます。意外と理解度の低い「競艇の部品交換」について、この機会にぜひ学んでおきましょう!
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競艇選手が部品交換を行う理由
各選手が使用するモーターは開催ごとに抽選で割り当てられ、そのモーターで1節間を戦います。
ペラの調整などを行って自分好みに仕上げていきますが、部品交換もセッティングに欠かせない作業の1つ。ただ、調整ではなくなぜ“部品交換”をするのか?その理由を解説します。
モーターの所有者は、各競艇場もしくは関連会社。選手自身の持ち物ではありません。
部品交換の目的は「機力の底上げ」
部品交換を行うにはモーターをバラす必要があり、セッティングをやり直すことにも繋がります。よって、部品交換を行う選手のモーターは「機力がイマイチ」であると考えるのが妥当です。
- 連対率が低いモーターを引いた選手
- 整備に自信があるベテラン
上記のような選手は、初日の段階から大整備に乗り出すケースも。1走目から部品交換を行った選手は特に注意しましょう。
事故などで損傷した場合の交換
部品交換にはもう1つ、レース中の接触や転覆などでモーターに問題が生じた時。やむを得ない理由による部品交換もあります。
モーター内部には、消耗しやすい部品や衝撃によって破損が起きやすい部品も少なくありません。
いずれにしても、機力アップを目的とした交換が行われます。ただ、航走に支障をきたしかねない不具合を見つけた場合も、部品交換してモーターを組み直す作業を行います。
エース機や好気配モーターは部品交換しない
仕上がっているモーターに余計な手を加えることは機力ダウンのリスクを生みます。
その為、勝率・連対率の高いモーターを持つ選手、予選の成績が良い選手は、よほどの大きな損傷でもない限り部品交換を行うことはないでしょう。
逆にいえば、好モーターの選手が部品交換に出た場合、機力落ちなど”何かしらの不安要素”を持っている可能性が高いです。
展示の動きから機力変化をよく確認し、選手の評価をするようにしてください。
部品交換の基本的なルール
主に機力アップを目指すための部品交換ですが、好きなだけ自由に換えて良いというものではありません。
違反行為が起きないよう、部品交換はしっかりとしたルールや管理の下で行われています。その中で代表的なものをいくつか解説していきます。
交換可能な部品は決まっており、作業はすべて選手が行う
競艇のモーターは約400点もの部品で構成されていますが、レース開催中に選手自身が交換して良い部品はあらかじめ決められています。
競艇には「自主整備」の原則があり、部品交換に要する作業は選手1人で行わなければいけません。うっかり手伝ってしまった場合は「整備規程違反」となり、重いペナルティが待っています。
唯一の例外は、転覆などのアクシデントがあった後。
損傷が激しい時のみ、同支部や同期選手たちの手も借りながら交換、整備をすることがルールで認められています。
整備士の許可なしでは交換できない
部品交換をできるのは、開催場の整備士に申請して許可が下りた場合のみ。
部品はレース場の格納庫に管理されているので、いつでも自由に交換して良いという訳ではありません。
前述した通り、競艇のモーターは選手の自前ではなく各競艇場が所有する備品。選手自身に金銭的負担は生じないため、正当な理由がない場合などには交換が却下されるケースもあります。
部品の持ち込みは厳罰の対象
レースで使用できる部品は、レース場で管理されているものに限られます。
選手個人が用意できるのは「点火プラグ」のみ。その他の部品は同じ規格であっても自前での持ち込みが禁止されており、持ち込みがバレると「整備規程違反」で重い処分が下されます。
過去には、記念レーサーが部品を持ち込み、使用したことがバレて引退に追い込まれた例も。
1988年9月4日に部品持ち込みを行ったことによる整備規程違反が発(中略))同年9月、整備違反による彦坂の引退が正式に決定した
引用元:Wikipedia
公正なレースが大原則となる競艇では、不正改造に対してのペナルティは重罪。かなり重たい厳罰が待ち受けているのです。
交換した部品の情報はレース前に公開
部品交換を行った選手の情報は、レース前のスタート展示中にアナウンスされます。
前検日に交換した場合は、初日1走目に情報が公開。2回走りの選手が1走目を終えて、2走目までの時間に部品交換を行うことも可能です。
交換内容については、ライブ中継やオフィシャルサイトでチェックすることができます。また、場内の出走表には節間の交換状況が履歴で掲載されているので、まとめて確認したい時には便利です。
賛否あるセット交換とは?
2024年6月のグラチャンで24人が着手して話題となったセット交換。
エンジンの根幹にかかわる部品(ピストン2個・リング4本・シリンダーケース)を丸ごと交換し、全く別物のエンジンに仕上げるモーター整備の通称です。
ルール上、違反行為ではありません。しかし、元々素性の良かった部品を使用できるなど”公平性を欠く整備”として、一部の関係者から否定的な意見が多数挙がっています。
そうした声を受けて、第29回オーシャンカップでは”セット交換禁止”追加規程が通達されました。
今後、全場で同様のルールが採用されるのか?変更された場合、追って詳細をお知らせすることにします。
今後も容認されるなら、セット交換した選手は注視する必要あり。
競艇で交換できる部品は全9種類
現在、選手自身が交換申請ができる部品は以下の9種類。
- ピストン
- ピストンリング
- シリンダーケース
- ギアケース
- キャブレター
- 電気系統一式
- キャリアボデー
- クランクシャフト
- プロペラ
先述した通り、申請が却下されるケースもあるので、交換できるかどうかは整備士の許可次第です。
部品代は開催施行者負担となりますが、1個数百円から数万円レベルまで価格はさまざま。交換による効果もそれぞれに違いがあります。
ピストン
高速の往復運動によって燃料を燃やす「ピストン」。効率が下がれば機力にも影響するため、主に出足強化の目的で交換が行われます。
ピストンは2つありますが、バランスを調整する意味で片方1つだけ交換することも。部品交換情報では「ピストン×1」あるいは「ピストン×2」のいずれかで表記されます。
ピストンリング
燃焼効率に大きく影響する「ピストンリング」。ピストン同様、消耗品となるので交換頻度は高めの部品となります。
1つのピストンにつき2つ付いており、1度に交換できる最大数は4つ。リングはピストンとの相性も大事になることから、選手は新品と中古のいずれかを選んで装着しています。
シリンダーケース
ピストンを格納する「シリンダーケース」。選手や関係者の間ではスリーブとも呼ばれている部品です。
中で動くピストンとの摩擦によって出力ダウンに影響することもあるため、ピストンをスムーズに動かす目的で交換されます。もし、ピストンとセットで交換している場合は、根こそぎ手を加えた整備と理解できます。
ギヤケース
モーターの最下部にある「ギヤケース」。
先端にはプロペラを装着するシャフトが付いています。歯車の噛み合わせを調整することで、出足あるいは伸び足の強化を目的とした整備を行います。
変形や摩耗で劣化してくると交換に踏み切りますが、交換後の調整は難しいと言われている部品です。
キャブレター
モーター内でガソリンが燃焼されやすいよう、空気と混ぜた混合気として送られます。その噴射装置となる部品が「キャブレター」です。
選手コメントでよく聞かれる「ブルが入る」という言葉は、レバーを握った瞬間に空転が起きて加速が鈍くなる現象。この場合は、キャブレター交換によってガソリンと空気の比率を調整します。
電気系統一式
プラグに点火して火花を出すため、必要な電気を送る部品。
電気系統は複数のパーツで構成されています。その為、部分的な取り換えが難しく、ほとんどの場合は一式での交換となります。
転覆で水に浸かるなどの事故が起きた場合には、次の出走レースまでに必ず交換される部品です。
キャリアボデー
キャリアボデーは排気ガスを水中に送り出すための部品。車のマフラーと同じ役割を果たし、モーターの内部を冷却する働きも持っています。
以前は交換があってもアナウンスされていなかった部品ですが、2015年11月からは交換情報が公開されるようになっています。
クランクシャフト
クランクシャフトは、ピストンの往復運動を直線的な働きから回転運動に転換させる部品です。
ボートを走らせるためには欠かせない心臓部ですが、交換に時間を要するうえ非常に高価なので、整備士の許可がなかなか下りないという話も聞かれます。
プロペラ
選手所有(持ちペラ)が認められていた時代は、毎レースのように交換があった部品です。
ただ、レース場備え付けのペラ使用にルールが変わってからは、戦略的な交換ができなくなり、現在は原則として破損があった場合の交換に限られています。
部品交換した競艇選手の評価方法
モーターを構成する各部品の役割を理解すれば、部品交換の狙いや期待される良化・悪化のポイントも予測しやすくなるでしょう。
そこで、私が特に注視しているポイントをいくつか解説。部品交換した選手の評価に役立ててください。
出足評価に大きく影響する「ピストン」と「キャブレター」
ピストンとキャブレターはどちらも燃焼効率に関係し、スムーズな加速が交換の主な狙いとなります。
部品交換が功を奏せした際に期待できるのは「出足の良化」。スタート展示のピット離れやスロー進入の起こしに良い変化が見られれば、選手評価を一段階上げて予想しましょう。
「ピストンリング」は舟足アップも
ピストンリングは消耗品ですが、新品に交換したからといって機力が上がるとは限らない難しさがあります。
ピストンやシリンダーケースとの組み合わせで燃焼効率も変化するので、敢えて中古のピストンリングと取り換える選手も多数存在します。
ただし、各部品との相性が合えば「舟足全般の底上げ」も期待大。選手の整備力も反映されやすい部品といえます。
絶不調と判断できる部品交換のパターン
部品交換の内容によっては「整備にかなり苦しんでいる」「お手上げっぽい」といったマイナスの印象を受ける選手もいます。
例えば「ピストン×2、ピストンリング×4」ならピストン部分の総取り換えとなるため、舟足全般が相当良くないことが想定されます。
また、2回走りの後半レースでの部品交換(事故によるやむを得ない場合を除く)をした選手は、交換後の調整に使える時間が少なく、気配良化の可能性は低いと考えるのが自然です。
クランクシャフトのような高価な部品の交換も、万策尽きた選手が行う最終手段。
もちろん、ごくごく稀に気配が良くなるケースもありますが、基本的に“下げ評価”で予想することをおすすめします。
実力のない選手は部品交換が困難
何度もお伝えしている通り、部品交換にはレース場の整備士による許可が必要です。
部品交換には相応の経費が掛かることから「交換する意味があるかどうか?」についての判断は思っている以上に厳しいようです。
例えば、A1級で活躍する選手なら、整備も水準以上の技術を持っていると判断できます。一方、実績のない選手だと、機力を活かせるだけの実力を持っていないことがほとんど。
有償での提供である以上、どちらのケースが認められやすいか?その答えはあなたの明白でしょう。
要は、部品交換の融通も選手次第。
実績を積み上げて各地の整備士と関係を築いていくことも、ボートレーサーには重要なスキルなのです。
まとめ
今回は競艇の部品交換についてまとめました。
モーターの各部品にはそれぞれの役割があり、最大限に機力を引き出すには「調整&交換」が重要となります。
もちろん、交換の有無を確認することは大事です。しかし、交換理由をはじめ、どのような影響を及ぼすのか?その点について理解しておくことも、予想には欠かせないポイントとなるでしょう。
とはいえ、部品を交換しただけで気配が激変することは滅多にありません。
ただ、起こしや直線の伸びといった部分的な動きが良化し、成績アップに繋がる成功例は多数あります。
「この選手はなぜこの部品を換えたのだろう?」とまずは考えてください。そして、評価の良悪に役立てることが勝利アップへの近道となるでしょう!
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