一昔前の競艇に存在した「持ちペラ制度」。かつて”自分専用のペラ”で戦っていた時代、現在とは全く違う競艇の姿がありました。
その制度も2012年4月をもって廃止。対応できず引退してしまった選手もいますが、そもそもなぜ抜本的なルール改正はなぜ行われたのか?
持ちペラ制度廃止の理由やその後の変化、そしてこの制度がもし復活したら艇界はどうなるか。個人的な見解含め解説していきます。
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競艇の持ちペラ制度とは?
古き良き競艇に欠かせない要素といっても過言ではない「持ちペラ制度」。その時代を知らないファンのために、持ちペラの基本的なことから紹介します。
1988年5月(昭和63年)に導入
持ちペラ制度(選手持ちプロペラ制度)は1988年5月に導入。
選手による部品の持ち込みは禁止されていましたが、プロペラに限っては「私物」で戦うことを認めたルール改正となります。
日本財団の資料によれば、持ちペラ制度は売上低迷を食い止めるために行った改革の1つ。また、他の選手が手伝うことを禁じる「自主整備方式」が導入されたのもこの時期。
自分1人での整備を義務づけた一方、プロペラに関しては自由競争を認める規制緩和が行われたわけです。
1節間に最大5枚のペラ持込み可能
選手は1節につき最大5枚のプロペラを持ち込むことが許され、開催期間中は持ち込んだペラを自由に使うことができました。
当時、部品交換で最も多かったのはプロペラ。ペラ交換する選手はとても多く、進入コースや水面コンディションなどに合わせて戦略的にペラを交換していた記憶があります。
毎レース交換する選手もいたほど。同じ競技?と思うぐらい違った気がする。
他人が作ったプロペラも使用可能
持ちペラ制度で特徴的だったのが「プロペラは自作でなくてもいい」という点。規則に反しないペラであれば誰がどんな形で作っても問題なし。
「師匠が作ったペラを弟子が使う」といったように、複数の選手が同じ作り手のペラを使って走ることも一般的だった時代。中にはペラ作りを依頼する選手もいたといいます。
選手間で流行ったデカペラなど、人それぞれ個性的なサイズ・形状があった。
今も残る「ペラグループ」の誕生
持ちペラ制度の導入によって”いかに強いペラを作れるか”の研究が過熱。
しかし、1人では資金や情報に限界があります。そこで生まれたのが、主に同支部のレーサーたちが集う「ペラグループ」というコミュニティ。
専用のペラ小屋でペラを叩き合う日々。理想の形状を模索する時間は新たな戦いの場となっていったのです。、
理想のプロペラが完成するとペラゲージで形状を保存。これがメンバーのみが使用できる門外不出の資産となり、複製してレースに使用されていきました。
ペラグループは各支部で設立されていき、小さいところを含めれば100以上は存在したはず。
グループ | メンバー |
---|---|
BPクラブ | 長岡茂一・野澤大二・村田修次・入澤友治・梶野学志など |
四街道組 | 山崎聖司・三角哲男・杉山貴博・山田哲也・桑島和宏など |
TMR | 桑原淳一・矢後剛・鈴木猛・阿波勝哉・齊藤仁・桑原将光など |
M’s FACTORY | 金子良昭・今坂勝広・菊地孝平・徳増秀樹・坪井康晴など |
Sブリット | 鈴木幸夫・天野友和・佐藤大介・山崎哲司・石川真二など |
B-DASH | 上島久男・池田浩二・杉山正樹・永井聖美・平本真之など |
神戸カンパニー | 沼田嘉弘・松本勝也・金子龍介・白石健・吉川元浩など |
イーグル会 | 小畑実成・林貢・川崎智幸・平尾崇典・山口達也・守屋美穂など |
祇園工場 | 田中寛・北川幸典・市川哲也・正木聖賢・中村智也など |
我勝手隊 | 濱田和弘・打越晶・白水勝也・渋田治代・岡崎恭裕・篠崎元志など |
上記はほんの一部。今もなお活動中のグループが沢山ある。
持ちペラ制度の廃止理由
2011年の年末、日本モーターボート競走会は「2012年4月で持ちペラ制度を廃止する」と発表。廃止以降は競艇場備え付けのペラで戦う”オーナーペラ制度”へ。
改正直後の4月12日、交換時期と重なったの浜名湖で先行導入され、他場でも順次プロペラのルールが切り替えられました。
それにしても、公式発表の内容が分かりにくすぎ。
選手の持ちペラ制度は、選手のプロペラ修整技術向上により迫力あるレースの具現化に寄与した反面、モーターと選手の持ちペラがどのようにマッチングするかが複雑で推理が難しい
どのような課題を改善する目的で持ちペラ制度を廃止したのか?
「ペラ至上主義」からの脱却
プロペラが舟足に与える影響は大きくなっていき、調整技術も飛躍的に向上。そして、グループ間の競争が激化し、予想を遥かに超えた存在になってしまいます。
制度廃止の狙いはこの「ペラ至上主義」の構図を弱体化させること。
旋回技術や整備力といったスキルを正しく反映させ、実力主義にしたかったのでは。私はそう感じています。
実力もなくペラだけで稼げてしまうのは確かにおかしかった気がする。
選手間の公平性を保つため
必要以上に選手間の格差を作ってしまったことも問題視されました。
持ちペラ制度により、強大なペラグループの所属選手がメリットを得られたのは事実。腕が未熟でも、先輩や仲間が作ったペラのおかげで生き残れた選手は少なくでしょう。
また、ペラの研究開発が進むにつれて膨大なコストが掛かります。
プロペラの値段は1枚2万2000円(当時)。さらにプラスαで費用が嵩み、1枚10万円を超えることもあったとか。
資金力にモノをいわせたペラ作りには、廃止前から疑問の声が多数挙がっていたようです。
モーター勝率の信憑性を上げるため
モーター性能を凌駕するほどの威力を与えた持ちペラ制度。
裏を返せば「モーター勝率はアテにならない」と捉えられるようになり、予想を難解にする原因になっていきました。
モーター素性が2連対率と一致しなくなれば、情報としての信憑性は低下。予想の材料に使えないだけでなく、モーター抽選の意味すら失われかねません。
持ちペラ制度廃止には、プロペラが主役になることを避ける意味合いもあったと思われます。
モーター成績が重要視される現代。ファンからすれば稼ぎやすくなったのかも。
売上低迷も廃止理由の1つ
年度 | 売上高 |
---|---|
2007年 | 1兆75億円 |
2008年 | 9,772憶円 |
2009年 | 9,257億円 |
2010年 | 8,434億円 |
2011年 | 9,198億円 |
2012年 | 9,175億円 |
2013年 | 9,475億円 |
2014年 | 9,952億円 |
2015年 | 1兆422億円 |
2016年 | 1兆1,111億円 |
2兆円超えを記録した1991年から徐々に下がっていき、2010年には8000億円台にまで落ち込むどん底ぶり。
この状況を打開すべく、持ちペラ制度廃止を競走会から選手会へ提案。強い反対もあったでしょうが、やむなく了承した経緯があります。
売上回復のために導入された持ちペラ制度ですが、売上低迷によって廃止。お上の愚策に振り回された選手たちはほんと可哀想…
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持ちペラ制度廃止による影響
持ちペラ制度廃止後、多くの選手は初めて経験するオーナーペラに戸惑いを覚えたはず。はたしてどのような影響を与えたのか?
ペラ叩きは木製ハンマーのみ
オーナーペラはエンジンとセットで割り当てられます。以前は”ヤマト製・ナカシマ製”の2種類から選べましたが、現在はヤマト製のみ。
制度が廃止された今もモーター調整は可能です。ただ、ペラを叩く際に使用できるのは木製ハンマーのみ。
ペラゲージは自前で持ち込むことができるので、ハンマーで叩きながらゲージを合わせて調整していくことになります。ペラは叩くのみで削るなどの加工は禁止。また、破損がない限り原則交換はできません。
技術力・整備力・クジ運の勝負に
現在は「モーターのセッティングにペラをどう合わせていくか」が整備のポイント。持ちペラ制度廃止によって”プロペラからモーター”へと変わりました。
ペラの重要性が落ちたことで、選手個々の評価は「スタートやターン技術」と「本体整備力」に集約。
そして、現代のトップレーサーが集う重賞レーサーでは、前検の抽選で強いモーターを引く「クジ運」が大きなカギに。
持ちペラ制度廃止で「モーター2連対率の信憑性が取り戻された」と言い換えることもできるでしょう。
ペラに頼れず成績を落とした選手も
持ちペラ制度廃止で大きな割を食ったのが…
- ペラへの依存度が高かった選手
- ペラの力だけで勝率を上げた若手
オーナーペラに対応できず、2012年以降成績を落としたり、記念で顔を見なくなった選手は少なくありません。
持ちペラが使えなくなったことで解散したペラグループもありますが、引き続きターンや整備を教え合う仲間として存続を続けるグループもあります。
ペラグループではないけど、峰竜太率いる”峰軍団”とか。選手層の厚さは業界トップだと思う。
絶滅危惧種となったアウト屋
ペラ制度廃止で一番の被害者といっても過言ではないのが「アウト屋」たち。
アウト屋とは、伸び重視のセッティングで自ら6コースへ回り、内側の艇を豪快にまくっていく選手。そんな選手にとって、最大の武器(ペラ)が使えなくなってしまったのです。
結果を残せなくなったアウト屋が次々卒業していく中、東京支部「阿波勝哉」ただ一人、現役唯一のアウト屋として戦っています。
成績は低空飛行を続けていますが、彼こそまさにレジェンドと呼ぶべき存在。
廃止決定時の選手コメント
持ちペラ制度廃止が発表された当時の選手コメントを発見!
3選手とも異を唱える発言はなく、ルール変更に柔軟に対応していく姿勢が感じ取れます。外まくりで活躍していた飯山泰も、現行制度に対応していくコメントが聞かれました。
僕は(現行制度の前の)オーナーペラ制を経験しているが有利ということはない。とにかく対応していくだけ
エンジンがファンの方に分かりやすくなるので賛成。最初は変化するかもしれないが、時間が経過すれば今と大きく変わることはないと思う
自分のレーススタイルは崩したくない。できるだけ伸び型に仕上げていきたいけど、チルト3度は難しいと思う
持ちペラ廃止は舟券予想に影響したのか?
捉え方は人それぞれでしょうが、私個人として”凄く変化した”と感じています。
廃止前より情報の収集量は明らかに減り、ライト層の的中率向上に繋がった印象。ただ、その一方で「当時の方が良かった」と不満を漏らす人も。
インがさらに強く。軸も絞りやすい
持ちペラは艇の伸び足を劇的に改善できていたのが、オーナーペラへの変更でその武器を使えなくなった影響は想像以上だと思います。
そこへ追い打ちをかけるように、2010年以降騒音対策で「減音モーター」導入、さらには3周回タイムが2秒ほど遅くなる「出力低減モーター」を2016年に導入。
当然、インコース勝率は飛躍的に上昇し、持ちペラ廃止時期を境に現代のボートレーサーへ変革を遂げました。
外の艇はスリットで先行しない限り厳しい戦いが強いられます。その為、イン逃げを軸に手堅い決着を想定した買い目が基本です。
”つまらない”と感じる往年のファンも
1コースは元々有利な競技ですが、持ちペラ制度廃止で”圧倒的有利”に。「最も当てやすい公営ギャンブル」として売上爆増に成功しました。
そんな中、現状に満足していないファンもちらほら…
- 予想が単調でつまらない
- 持ちペラの時はスピードの迫力がすごかったのに
- 個性派が消えちゃって寂しい
持ちペラ制度廃止を嘆くファンも少なからずいるようです。
競艇歴は長い方なので気持ちは痛いほど分かります。でも、何かを得れば何かを失うのが世の常。
「ライト層が楽しめる当たりやすい競技」と同時に、昔ながらのファンを納得させる策はなかったはず。現にこうして盛り上がっているので、競走会の判断は正しかったという他ありません。
持ちペラ制度が復活したら?
可能性はほぼゼロでしょうが、令和の時代に”持ちペラ制度が復活”したらどうなるのか?
オリ展で「直線タイム」が最重要視
持ちペラの長所は伸び足。よって、オリジナル展示タイムの「直線タイム」が重要視され、今より注目度の高いデータになると考えられます。
持ちペラ時代に”オリ展”があったとしたら、伸び足(ペラ性能)の数値化が可能。そして、ペラ交換後のタイムと比較すれば、これまで収集不可能だった効果を計ることができそう。
アウト屋の復権に期待!
持ちペラ制度が復活しても、減音モーター&出低減モーターによるパワーダウンはかなり影響あるかも。
それに、売上アップのため”イン勝率高めの企画レース”が以前より組まれているので、古き良き時代に元通りとなるビジョンは見えてきません。
しかし、イン逃げが難しい水面に限り、強烈な伸び足を活かしたレースが増えそう。それと同時に「アウト屋」の存在が輝くはず。
アワカツに続くアウトレーサーが増える景色は見てみたい気がするw
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